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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)2017号 判決

本籍

佐賀県小城郡東多久村大字別府六五一七番地

住居

福岡県久留米市東町三四〇

会社員

伊東憲士

明治三四年三月一四日生

本籍

佐世保市折橋町一五〇番地

住居

同市山手町八〇一番地

会社々長

古賀光太郎

明治三三年一〇月二三日生

右伊東憲士に対する業務上横領、古賀光太郎に対する賍物収受各被告事件について昭和二六年六月三〇日福岡高等裁判所の言渡した判決に対し、各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人伊東憲士の上告趣意及び被告人古賀光太郎の弁護人永田菊四郎の上告趣意は、添付書面のとおりである。

被告人伊東憲士の上告趣意第一点について。

所論か、判例違反の趣意をもつて引用する当裁判所の判例は、控訴審判決の事実認定と、その旧刑訴三六〇条二項に基く判断との間に、矛盾が認められる場合に関する判決である。しかるに、本件の原判決においては、論旨の指摘する判示の外に、なお「被告人伊東憲士は、……熊本財務局佐世保管財支所長として、連合軍から賠償工場として指定された右工厰内の機械器具類の管理に従事していたもの、被告人古賀光太郎は、……古賀産業株式会社を創立したものであるが、……会社に必要な器具類がないので、旧知の被告人伊東が右管財支所長の職にあるを幸い、同人に依頼すれば器具の入手は容易だと考え、……被告人伊東に対し、右工厰の器具類の払下方を訴えたところ……」と判示しているところを綜合して考察すれば、論旨いうところの賠償物件の整理集積という労務の提供は、器具類払下げの条件というべきものであつて、これと対価の関係に立つものとは認められず、従つて所論無償というのは、代償金をも受取らないでという趣旨であることが認められる。即ち原判決は、被告人伊東が、その業務上保管に係る判示物件を、ほしいままに相被告人古賀に対し、無償で払下げたことをもつて、横領と判断した趣旨であることは明らかであるから、用語に多少の不一致があるからといつて、理由にくいちがいがあるなどというべきものではない。所論の判例は本件に適切でなく、論旨は理由がない。

同第二点について。

論旨は、結局原審の保証の是非を論難し、事実誤認を主張するのであつて、刑訴施行法三条の二刑訴四〇五条により適法の上告理由とならない。また原判決の証拠説明を検討すると、判示認定の犯罪事実は、各証拠により充分にこれを認めることができるから、原判決に所論のような違法はない。

弁護人永田菊四郎の上告趣意第一点について。

所論(一)は、刑事訴訟法三条の二は、上告理由の制限に関する限り、憲法に違反し無効たるべきものであるというのであるが、憲法八一条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」旨を定めている以外、なんら規定するところがないから、この点以外の審級制度は、立法をもつて適当にこれを定めることができる趣旨であることは、当裁判所大法廷の判例とするところであり(昭和二二年(れ)第四三号同二三年三月一日大法廷判決、第二巻三号一七五頁)また上告審の構造をいかに定めるかは、諸般の事情を勘案して決定せらるべき立法政策の問題であることも、当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところである(昭和二二年(れ)第五六号同二三年二月六日大法廷判決、集二巻二号二三頁)。従つて、刑訴施行法三条の二が上告理由を制限したからといつて、所論のように憲法違反があるということはできない。論旨は理由がない。また所論(二)の判断遺脱の主張は、法令違反を主張することに帰するのであるから、前説示のとおり、なんら憲法に違反するところのない刑訴施行法三条の二刑訴四〇五条により、上告適法の理由とならない。

同第二点について。

論旨引用の大審院判例は、控訴審が費消をもつて横領と認定した事案に関するものであるが、本件は原判決によれば、被告人伊東がその業務上保管に係る判示物件を、ほしいままに相被告人古賀に対し無償で払下げたことを横領と判断した趣旨であることは、被告人伊東憲士の上告趣意第一点につき説示したとおりである。従つて右引用判例は、本件に適切でない。また横領罪が成立するには、必ずしもその保管物についてこれを自己の所有と為し、若しくは自己の利益を得ることを目的として処分することを要しないことは、当裁判所数次の判例の趣旨とするところである(昭和二四年(れ)第二六八四号同二五年九月一九日第三小法廷判決、集四巻九号一六六四頁、同二三年(れ)第九三〇号同二四年六月二九日大法廷判決、集三巻七号一一三六頁、同二三年(れ)第一四一二号同二四年三月八日第三小法廷判決、集三巻三号二七六頁)。従つて論旨は結局理由がない。

同第三点について。

所論は、原判決中の用語につき独自の見解をもつてこれを論難するのであるが、要するに原判決の事実認定を争うことに帰着し、適法な上告理由とならない。

なお記録を精査しても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 小林俊三)

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